2026年2月 第2号 「遺言も相続税対策もバッチリ」──その安心、実は"穴だらけ"かもしれません

先日、創業40年のレストランチェーンを経営する佐藤社長(仮名・68歳)から、こう言われました。

「息子への事業承継は万全です。公正証書遺言も作ったし、相続税対策もやりました。もう心配することはありません」

満面の笑みでした。

私はひとつだけ、質問しました。

「佐藤社長、もし来年、認知症と診断されたら──今おっしゃった対策、どれが"使えなくなる"かご存じですか?」

佐藤社長の笑顔が、一瞬で消えました。

答えを言います。
ほぼ全部、使えなくなります。
遺言は「亡くなった後」に効力を発揮するもの。
認知症で判断能力が低下した「生きている間」には、何の力もありません。

つまり、こういうことです。

相続対策=亡くなった後の備え 認知症対策=生きている間に、あなたの意思と会社を守る備え

この2つは、まったく別物です。

ところが、「相続対策をした=すべて安心」と思い込んでいる経営者の方が、驚くほど多いのです。

■ 実際に起きた"悲劇"をお伝えします

ある製造業の会長(75歳)のケースです。

会長は自社株の60%を保有していました。
後継者の息子さんに経営を任せ始めていたものの、株式の名義変更はまだ済んでいませんでした。

そこに、認知症の診断。

何が起きたか?

会長名義の株式60%の議決権が、凍結されました。

息子さんは社長として現場を動かせても、株主総会の特別決議が通せません。
3億円の設備投資案件は宙に浮き、競合他社に大口顧客を奪われました。

「まさか自分の会社なのに、自分たちで何も決められなくなるとは…」

息子さんの言葉が、今も忘れられません。

■ なぜ、こんなことが起きるのか?

65歳以上の4人に1人が認知症またはその予備軍──これは厚生労働省が示している数字です。

「自分は大丈夫」と思う気持ちはわかります。
でも、認知症は本人が気づかないうちに進行します。
そして、銀行も取引先も裁判所も、「判断能力に疑いがある」と判断した瞬間に、容赦なく動きを止めます。

特に経営者にとって致命的なのは、次の3つです。

❶ 症状が出てからでは、もう遅い
会社の重要な契約、融資の借り換え、不動産の売却──すべて「本人の意思確認」が必要です。
判断能力が疑われた時点で、すべてストップします。
「来月やろう」が命取りになります。

❷ 「息子が継ぐから大丈夫」は、法的には通用しない
どんなに優秀な後継者でも、法的な仕組みがなければ、親の名義の株式も不動産も銀行口座も動かせません。
「家族だから何とかなる」──これが最も危険な思い込みです。

❸ 会社と個人、それぞれに対策が必要
自社株、事業用不動産、役員借入金、個人の預貯金…。
資産の種類ごとに最適な守り方が違います。
ひとつの方法ですべてカバーできるものではありません。

■ 佐藤社長は、どうしたか?

冒頭の佐藤社長はこう言いました。

「遺言を書いて、完全に安心しきっていました。生きている間のリスクなんて、考えたこともなかった」

佐藤社長はその場で、認知症対策の検討を始めました。
まだ68歳、判断能力がしっかりしている今だからこそ、取れる選択肢があります。

動けるうちに、守れる仕組みを作る。
これが、認知症対策の唯一にして最大の原則です。

■ ひとつだけ、確認してみてください

今日のメルマガを読んで、もしひとつでも「ドキッ」としたなら──
まずは、「自分が認知症になったら、会社はどうなるか?」を想像してみてください。

自社株は誰の名義ですか?
事業用の不動産は?
銀行口座の契約者名義は?

想像するだけで、「何も手を打っていない」ことに気づくはずです。

「知っている」と「備えている」は、まったく違います。

次号は── 「銀行が教えてくれない『口座凍結』の真実 ~ある朝突然、会社の資金繰りが止まった日~」をお届けします。「まさか、自分の会社の口座が使えなくなるなんて」──その"まさか"が、どのように起きるのか。
実例をもとにお伝えします。

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